きっと散りゆく恋だった

 うわ、サイアク。

 だらしなく緩みそうになる自分の頰を今すぐつねってやりたい。私は熱っぽくなる視線をなんとか抑えながら、いたって平然として振り返った。


「なに? 末治(まつじ)さん」

「おいー、だから苗字呼びやめろって。俺たちの仲じゃーん」

「そういうのうざい。好きじゃない」



 目の前で、サラサラと黒髪が揺れている。天パで生まれた私には、一生かけてもなれないであろう髪質だ。
 サラサラの上に艶もある。神様から恵まれた贅沢なやつだ。


 末治リョウ。彼の名は、そう言う。
 彼は私の幼馴染みであり、小学生の頃に私の初恋を奪ったやつである。


 私の初恋はもっとかっこよくて、優しくて、頼りがいのある男性に捧げるつもりだったというのに。よりによってこんなヘラヘラしたやつに、私は惹かれてしまったのだ。

 かれこれ八年と少しの、長い長い片想いである。けれど、その思いは永遠に彼に届くことはない。


「もうすぐ祭りだろ?」

「あー……うん、そだね」

「毎年俺ら一緒に行ってただろ?」

「……うん」



 ひとつひとつ、確かめるように聞いてくる。こういうところも嫌だ。
 その先に続く言葉なんて分かりきっている。私はそれを聞きたくない。


 堂々と耳を塞ぐこともできない。最終手段として私が口を開き、言葉で言葉をかき消すその0.1コンマの間に、彼はすばやく告げたのだ。









「俺、今年お前と行けないから」


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