きっと散りゆく恋だった
あたりはだんだんと暗くなってきている。打ち上げ花火大会まではあと一時間くらいだ。
足元に視線を落とす。
購入当初は真っ白だったはずのスニーカーは、今や汗泥雨に汚れてところどころ茶色くなっている。
きっと、こういうところなのだろう。私が選ばれない理由は。
末治リョウの彼女はココロという名前の可愛らしい子だ。ふわふわの髪に華奢な肩幅で、いかにも小動物を連想させるような見た目。以前委員会が一緒になったとき、爪先にまで抜かりなく手入れが行き届いており感動した。
ツヤツヤと光沢を放つ爪や、ぷるんと潤った唇。真っ白い肌に可憐さと清楚さを兼ね備えた服装。
遺伝子勝ちという言葉があるけれど、この子の場合はそれに加えて日々の努力があるのだと感心した。
「……当たり前の結果か」
がんばったほうが報われる。何事もそうだ。
それに嫉妬していたって、仕方がないことだ。もう、彼のことは忘れよう。
何度そう思って、立ち直ろうとしたことか。失恋から立ち直る方法、と検索しても出てくるのは【新しい恋を見つける】だの【推し活をする】だのでたいして参考にはならなかった。
公園につくと、ひとりの男性がなにやら準備をしていた。無意識に息を呑む。
ひとりで、ワクワクという表現が似合いそうな表情をして、彼はバケツやら花火セットやらを用意していた。
ふんふんと聞こえるのはどうやら鼻歌らしい。驚いて見つめていると、こちらを向いた彼とばちりと目があった。
「……わ」
おいで、といったふうに手招きされる。普通なら、近づいたりしない。けれどこの日は失恋のショックと、家族からも退けられた孤独でおそらく精神がどうかしていたのだろう。私は気付けば、彼のそばに寄っていた。
遠目からだとよくわからなかったけど、近づいてみるとなかなか綺麗な顔立ちをしている。年齢は私と同じ17歳くらいだというのが私の予想だ。
「……あの」
「暇? 暇なら一緒に花火しよっか」
「え」
「もしかして祭り行く? そんな死にそうな顔で祭り?」
顔を覗き込まれる。透明な瞳とまっすぐに目があった。