何度でも。
 うちの町のお祭りはしょぼい。

 出店はたこ焼きとかき氷とフランクフルトだけ。

 小さい子向けのヨーヨー釣りなんかはあるけど、高校生のあたしたちはそれを横目に見るだけだ。

 そんなのだから、あたしも遼太も浴衣なんて着てこなかった。




「真依、何か食べる?」

「かき氷かなぁ」

「シロップかけ放題だってさ」

「かけすぎてドロドロにしないでよ?」




 高校生最後の夏休み。
 それを、幼馴染であり、彼氏である遼太と過ごせることは、嬉しいことのはずなのだけど。




「うわっ、変な色!」

「もう、遼太。だから言ったでしょ?」

「レインボーにしたかったんだ」




 ぐしゃぐしゃになったかき氷を、同じスプーンで食べる。

 あたしたちの仲は町のみんなが知っているから構いやしない。

 しゃり。しゃり。とろり。

 こうしてまた一つ、終わっていく。遼太との夏が。



 遼太は東京の大学を受けることに決めた。
 
 うちの高校じゃ成績はトップだったもの。それには何の疑問も無いのだけれど。きっと受かるだろうけれど。

 つまり、それは――この町に残ることにしたあたしと、離れるということで。




「真依」

「……なぁに」

「顔、くらーい」

「そりゃあ……そうなるよ」




 かき氷のカップを捨てて、遼太はあたしの手を繋いで歩きはじめた。

 お祭りの会場を抜けて。あぜ道を歩いて。遼太の家の庭まで。




「用意しておいたんだ、線香花火」




 遼太はそう言って、パックに入った線香花火とバケツとライターを持ってきた。




「ぱあっとしよう、真依。ぱあっと」

「線香花火だけじゃ、ぱあっとしなくない?」




 そんな文句を言いながら、あたしたちはしゃがんで線香花火に火をつけた。

 思った通り、線香花火は地味だった。

 オレンジ色の、小さな小さな火花がぱち、ぱち。

 最後に玉が、ぽとり。

 それと一緒に、あたしの涙も落ちていた。




「……真依?」

「見ないで」

「見るよ。俺の可愛い彼女の表情は、全部見る」

「やめてよ」




 遼太がそっと、あたしの頬に左手をあてた。




「やっぱり、離れるの……不安?」

「当たり前でしょ。だって、だって」




 東京に行ったら、勉強に忙しくてそれどころじゃなくなるんじゃないかなって。

 遊ぶところも色々あって、あたしのことなんて構わなくなるんじゃないかなって。

 そして、他の女の子と付き合うんじゃないかなって。

 不安で不安で不安で、不安でいっぱいだ。




「ねえ遼太。この花火と一緒だよ。あたしたちにも、きっと終わりが来るんだよ」




 あたしがそう言うと、遼太は線香花火に火をつけた。




「……そしたらさ」




 ぱち、ぱち、ぱち。




「何度でも、新しいのに火をつければいいよ」




 ぱち、ぱち……。




「四年分の花火、用意しとく。それで、お互い就職したらさ。結婚しよう」




 ぽとり。




「遼太……遼太ぁぁぁ……」




 よしよし、って子供にするみたいに遼太は背中をさすってくれて。

 そして、誓いのキスをしたんだ。
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