ひとりぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい
美男子と目を合わせた経験なんて過去にないから、私は少し緊張してしまった。
「……夕夏って呼んでもいい?」
遠慮がちにそう訊ねる鞍馬くん。私は少し考えた後、不愛想に「好きにすれば」とだけ返した。
それからまた何とも言えない沈黙が二人の間に落ちる。
この二人きりの空間が気まずすぎて、なんとか会話の種を探そうと試みるけれど、一向に見つからない。
私が沈黙を破ることを諦めて地面に視線を落とす直前、鞍馬くんが口を開いた。
「そういえばその制服、東月高校のだよね」
私は反射的に鞍馬くんに視線を向け、こくりと頷く。
「やっぱり。今日から俺もその高校に通うんだ」
「え、そうなの? こんな時期に、……」
そこまで言って、私は口を閉ざした。
別に転入してくるタイミングは人それぞれだと思い直したから。
「こんな中途半端な時期になんで、って思ったでしょ」
いたずらに笑いながら私を見つめてくる鞍馬くんに、私は「なっ……!」と反論しようとした。
けれどそれは図星で、私に反論の余地もなく、結果的に認める羽目になった。
「それにはねー、ある重大な秘密があるわけですよ」
急に口調を変えたと思ったら、今度は真剣な表情で私を見つめてくる鞍馬くん。