ひとりぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい
「な、何」
「いや、何でも」
「……この時期に転入する理由、教えてくれないの?」
「うん、それは秘密」
鞍馬くんは自分の唇に人差し指を乗せ、私と目線を合わせるために少しかがんでそう言った。
ここまできたら当然教えてくれるものだろうと思っていた私は、肩透かしを食らった気分だった。
「ふうん。そっか」
私は無関心半分、好奇心半分という複雑な心境で相槌を打った。
「それにしても、今日から夕夏と同じ高校に通えるの嬉しいな」
人懐っこい笑みを浮かべ、本当に嬉しそうに言うものだから、私は反応に困って苦笑いだけを返した。
銀色の雪世界に、白銀の髪がふわふわと揺れている。その色は人工的なものではなくて、思わず惹き込まれてしまう。
「ううっ、さぶ……っ! ねえ夕夏、ここってバスが来るような場所には全く見えないんだけど、ちゃんと来るの?」
私の隣で、青い顔をして肩を震わせている鞍馬くんが言った。
今まで平気そうだったのに、急に寒がるんだな。
そんなことを思いながら、私は口を開いた。
「それは、……断言できないけど。これくらいの雪なら、きっと来るよ」
「そっか。夕夏がそう言うなら、きっとそうなんだろうな」
鞍馬くんは私の言葉をすんなり信じてバスが来る方に視線を向けていた。