ひとりぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい
すぐに着替えに行くつもりだった私だけど、澤矢先輩の背中に目を向けて思わず立ち止まってしまう。
まっすぐと背筋を伸ばし、真剣な表情で弓を引く先輩は、冗談抜きで本当に美しかった。
先輩が放った弓矢がまっすぐな直線を描き、的の真ん中目掛けて飛んでいく。
バンっと的に矢が刺さる音が二人きりの弓道場に響いた。
「そんなに見つめられると、恥ずかしいんだけど……」
先輩は照れたように頬を掻き、私を振り返った。
見てたこと、バレてたのか。
「っあ、ごめんなさい! 先輩が、とても美しくて……」
私は慌てて謝り、馬鹿みたいに本音をこぼした。
「え……?」
先輩は目を見開いて私を見ている。
あ~っ、もう! 私ったら何口走ってるのよ!
口を押さえて、穴があったら今すぐに入りたいという羞恥に駆られた。
「あっ、嘘です、いや、嘘じゃないんですけど……でもっ!」
必死に弁解しようとする私を先輩は未だに驚いた表情で見つめていたけれど、やがて表情を変え、「あははっ」と弾けるように笑った。
うん、ここまできたら引かれるよりは笑われた方がよっぽど良い。
私は自分にそう言い聞かせ、顔を真っ赤にしながら更衣室に入った。