ひとりぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい
制服に着替え、部室から出ると、そこには思いがけない人物がいた。
「あ、夕夏」
「……鞍馬くん? そこで何してるの?」
私は目をまん丸くさせたまま硬直してしまった。
「何してるのって、もちろん夕夏を待ってたんだよ」
動けないでいる私に近づいてきて、スマートな仕草で私の部活鞄を手に取った鞍馬くんはにこっと微笑んだ。
いや、何がにこっ、だよ! 絶対笑うとこじゃないでしょ。
「……私、弓道部に入ってるって言ってないよね?」
「うん、そうだね」
「じゃあ、どうして部室の前で待ってたのかな」
「どうしてだろうね?」
鞍馬くんは私をからかうように小首を傾げ、口角を上げた。
形の良い唇が綺麗な弧を描いている。
……きれい、じゃなくて!
「鞍馬くん、ちゃんと弁明しないと私本当に怒るよ」
「わ、分かったよ。クラスの子に訊いたら教えてくれたんだ。だから、夕夏が部活終わるまで待ってようと思って待ってたの」
鞍馬くんは至極当然と言わんばかりの表情でそう言った。
悪意ゼロの笑顔を目の前にして、私は対話をする自体を諦めた。
「……はあ、分かった。もういいよ」
小さくため息を吐いて、昇降口に向かって歩き出す。