ひとりぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい
私が大股で足早に歩いても、足の長い鞍馬くんにはすぐに追いつかれてしまう。
そんな些細なことにイラッとして、私は歩くスピードを格段に速めた。
外に出ると、遥か上空からまばらに雪が降っていた。
私は鞄から折り畳み傘を取り出し、開く。何気なく鞍馬くんの方を見ると、空を見上げて立ち止まっていた。
「……鞍馬くん、そこで立ち止まってどうしたの?」
鞍馬くんを置いて先に行くメンタルの強さは持ち合わせていなくて、私はそう訊ねてしまう。
「あ、ああ。俺、傘持ってないからどうしようかなあって思ってたとこ」
鞍馬くんは私に目を向け、苦笑いを浮かべた。
私は次の返事をするまでに必死に頭を回転させ、あることをしぶしぶ提案してみることにする。
「……、私の傘、小さいけど鞍馬くんも入る?」
そう言った瞬間、恥ずかしさのあまり顔に熱が集まるのが分かった。幸い、辺りはもうすっかり真っ暗だったから気づかれる心配はなかった。
「えっ、いいの?」
学校の昇降口から漏れ出るわずかな光が鞍馬くんの驚いた顔を照らしている。
「……う、うん。鞍馬くんが明日風邪でも引いて私のせいになるってのが嫌だからね」
本当は違う。そんな捻くれた考えなんてなく、ただ不思議と親切心で提案しただけ。