ひとりぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい
「そっかあ~、そういう理由か。まあ、納得納得。恥ずかしがり屋な夕夏が自分から相合傘しようって提案してくるなんてありえないもんね」
っ、あ、相合傘⁉ それに、何知ったような口利いてるの……! 意味が分からないよ……。
鞍馬くんの口から発せられたワードに脳内がパニックになったけれど、私はなんとか平静心を取り戻して半ば強引に鞍馬くんの手に傘を押し付けた。
「……ふふっ、相変わらずツンデレさんだなあ」
鞍馬くんは楽しそうに笑った。
若干イライラしていた私はその言葉を聞き流した。私より身長の高い鞍馬くんの持つ傘の下に立って、バス停へ向かって歩き出す。
するとパラパラと傘の上に雪が落ちる音が頭上から聞こえてくる。
──あ、霰だ。
私は思わず傘の外に手を伸ばして、霰を手のひらで受け止めた。
「何してるの?」
鞍馬くんが不思議そうな顔で訊く。
「雪霰か氷霰、どっちなのか確かめたくて」
冷たくて少し固い霰は、スマホの光に照らしてみると半透明に艶めいた。
「あ、氷霰だ」
私は思わず微笑んでしまう。
隣から私の手元を覗く鞍馬くんは、驚いたような声を上げた。
「うおっ、綺麗」
そこで初めて、私は鞍馬くんとの距離の近さを自覚した。