ひとりぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい
「……っ、鞍馬くん、ちょっと近い」
「あ、ごめん!」
鞍馬くんはすぐに顔を上げて私から離れた。離れたと言っても、お互い傘の中にいるから距離はあまり変わっていないけれど……。
それとは別に、私は少し驚いたことがあった。
「……やけに素直だね」
「いや、だって、夕夏に嫌われたくないし。鬱陶しい男だって思われたくないから」
その言葉を聞いて、私は思わず「っふ、」と吹き出した。私が笑うと、鞍馬くんは「えぇ、何!?」と慌てた。
「ふふっ、だって、初対面で告白してきた人がそんなこと言うなんて。それに鞍馬くん、気づいてないと思うけどもう十分鬱陶しいと思うけど?」
私はくつくつと肩を震わせながら二人の間にそんな爆弾を落とした。
鞍馬くんはその言葉に軽くショックを受けた顔になるけれど、私が本気で言っていないことが分かったのか表情を和らげた。
バス停に着くと、まるで私たちがここに来るのが分かっていたかのように帰りのバスの明かりが見えてきた。
「お、グッドタイミング」
隣で鞍馬くんが嬉しそうに言う。私もその言葉に頷いた。
鞍馬くんに続いてバスに乗り、一番後ろの長シートに二人肩を並べて座った。
男の子とで同じ一つの傘に入るのも、バスで隣に座るのも私には初めての経験で、やけにドキドキしてしまった。