ひとりぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい
空を見上げると、どんよりとした雪雲が視界一面を覆っていた。
この冬の間は、太陽も分厚い雲に覆われていて、最近は青空を目にすることは滅多になくなった。
私の住む北海道の冬は、うんと寒い。
針葉樹林が立ち並ぶ雪山に、私とおばあちゃんが住む家が建てられている。
こじんまりとした、小さいけれどお洒落で温かい木造建築の家。
そこが、私が私でいられる唯一の居場所だった。
見慣れた雪道。
辺り一面、小さな氷の結晶で埋め尽くされた雪景色が私の視界に広がっている。
どこまでも続く美しい光景に、私の目が奪われるまでに時間はかからなかった。
「ほんと、綺麗だなあ……」
一人ぽつりと呟き、今日も一段と寒く吹く風に私は身震いし、鞄を持つ手に力を入れた。
一年の中で、私が一番憂鬱になる季節。
それが冬だ。
寒いし、雪かきが大変だし、部活ができないこともある。
冬には難点がいっぱいある。
……だけど、それよりも。
思い出したくない出来事が、この冬にはあるんだ。
「さむ、……」
私はごまかすように言った。
小さく呟いた私の声は、誰にも拾われることはなく、真っ白な雪の中に落ちていく。
ザク、ザク、ザク……。
雪を踏む音がやけにはっきりと聞こえる。
それだけ私の世界は、静かだった。
静か過ぎて、少し怖いくらい。
冷風に吹かれ、手が寒さでかじかんで赤くなっている。手袋はしていない。