ひとりぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい


ザク、ザク、ザク……。


雪を踏む音がやけにはっきりと聞こえる。それだけ私の世界は静かだった。静かすぎて少し怖いくらい。


冷風に吹かれ、手が寒さでかじかんで赤くなっている。手袋はしていない。


理由としては今年用の手袋がまだ完成していないというだけのこと。おばあちゃんに教えてもらいながら一生懸命に縫っている最中だ。

私の手先が不器用すぎて、おばあちゃんが作るよりも余計に時間がかかっている。


私の手作業を見ているとイライラが募るばかりだろうに、おばあちゃんは優しげな表情で見守ってくれる。

私は毎日、そんな優しいおばあちゃんと一緒に暮らしている。


いつも通りの日常を少しずつなぞる中、今日はいつもと違うことが一つだけあった。


いつもは私以外誰もいないはずのバス停に、温かそうな黒色のダウンを着た男の子が一人、静かに佇んでいた。


近づいていくと、その子と一瞬目が合った。すぐに逸らされたけど。


私は少し訝しく思いながら、その男の子の隣に立ってバスを待つ。

さっきからチラチラと見られている気がするけど、無視だ。

バスの運行状況を聞かれても私には答えられないし。

< 4 / 25 >

この作品をシェア

pagetop