ひとりぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい
そんな不毛な会話を繰り返している内に、何だかおかしくなって、二人同時に目を見合わせて吹き出した。
「…っはは、これじゃあきりがないね」
「うん、そうかも」
まだ名前も知らない男の子に思わず笑いかけて頷いた。
「……、」
「……ねえ、あなたの名前、なんて言うの?」
沈黙が生まれたので、その間を埋めるために話を切り出した。男の子の瞳がわずかに揺れ動く。
「……、俺の名前は、鞍馬絢斗。絢斗って呼んで」
その表情には、私が名前を訊いた時の動揺した様子はすでに消えていて、深く気にすることはなかった。
「くらまあやと、……素敵な名前だね。鞍馬くん」
私は表情を緩めてそう言った。
「絢斗、って呼んでほしいんだけど……」
「呼ばないよ。ていうか、呼べない。私、出会ってすぐに名前で呼び合えるようなキャラじゃないし」
私は唇をとがらせてそう言った。
「そっ、か。残念、なら仕方ない」
鞍馬くんは本当に残念そうな顔を浮かべた後、後頭部を掻いた。
「……ところで君の名前は?」
そう訊かれて、私は自分の名前を名乗った。それと、名前の漢字も訊かれたから教えた。
「篠田夕夏、か。素敵な響きの名前だね」
鞍馬くんは柔らかく微笑んで私に視線を向ける。