一生分の、恋をした
2人きりの病室。
大声で泣く詩を、綾人が抱きしめる。
「医者なのに、病院に来るたびに会ってたのに、気がつかなくてごめん。」
「…綾人のせいじゃない…」
「ごめんな…」
「謝らないで…」
大きな瞳から、涙がポロポロと溢れる。
「詩。お母さんのこともあって、治る未来が見えないと思うけど、治療を頑張れば寛解できるチャンスは十分ある。俺も全力で治療するから。一緒に頑張ろう」
「綾人…」
「怖かったら、俺が毎晩泊まって話し相手になってやるから」
「…それはいい。きちんと家に帰って寝て」
苦笑いをする綾人と詩。
「…綾人、ごめん。綾人は忙しいのに、私が心配かけちゃいけないね」
「詩…」
「私、治療頑張るよ」
潤んだ目をしながらも、なんとか笑顔を作る詩。
詩が無理をしているのがわかり、痛々しく感じる。
「…ありがとう、詩。一緒に頑張ろうな」
綾人がまた優しく詩を抱きしめ、栗色の髪を撫でる。
綾人に抱きしめられるのは初めてだったが、詩は心が温かくなってほぐれていくのを感じた。
─本当のお兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかな…
お兄ちゃんを悲しませないためにも、前を向いて頑張らなきゃ。
自分を奮い立たせる詩だった。