一生分の、恋をした
よく晴れた11月のある日。

七岡高校3年生、長月 詩(ながつき うた)は、高校で行われる年に一度のスポーツテストを、今年もグラウンドの端のベンチで見学していた。


幼少期から重い喘息持ちの詩は、医師から厳しく運動禁止を言い渡されており、学校のスポーツテストや体育の授業への参加はおろか、物心つく限り、スポーツすらしたことがなかった。


何度も命の危険を伴う発作や、入退院を繰り返してきた詩。


幼い頃から、そんな自分の弱い体は大嫌いだった。


昔は自分も体育の授業や昼休みのかけっこに参加したいと駄々をこねたり、実際に友達と走り回って発作を起こし母を困らせたりした。


しかし、今では諦めが生まれ、クラスメイトが楽しそうにスポーツしている姿を微笑ましく見守れるようになった。


まるで、自分とは違う世界の人たちを見ているかのように。


そうやって、いつも静かにクラスメイトを見守る詩。


小さな顔には少し不釣り合いな丸く大きな瞳と、長いまつげ。
そして笑うと見える八重歯が印象的な、少し幼さが残りつつも美しく整った容姿。

元々色白な上に、幼少期からの外出制限のある生活が生んだ、透き通るような白い肌。

長い髪は、色素が薄く少し茶色がかっている。


身長は150cmにも満たない低さという華奢な体つきで、とても高校3年生には見えない。

そんな姿から、クラスメイトのみんなから可愛がられている詩だった。


整った容姿と儚げな雰囲気から、異性から告白されることも多かった。

しかし、本人は決まって「こんな病弱な自分と付き合ったら、きっと迷惑をかける」という理由で断ってきており、今まで誰とも付き合ったことはなかった。









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