一生分の、恋をした
─クソっ。警戒はしていたのに、肺炎なんて…


夜10時。

医局でうなだれている綾人の元に、詩の病状と綾人の様子が気がかりで残っていた萌音が近づいてくる。


「…あの、先生…」

「…永田さん。こんな遅くまでどうした?何かあった?」


「言おうか迷ったのですが…」

言いにくそうに話し始める萌音。


「今日、詩ちゃんが私のことを先生だと勘違いしていて…先生のことを『大好き』と言っていました。先生、詩ちゃんの思いに気づいていましたか…?」


「…なに…?」


綾人は、詩が自分のことを、いつも煙たがっていると思っていた。


顔を合わせばいつも病気のことしか話さず、生活するうえで制限をかけたり、説教をしてばかり。


最近の詩には、悲しそうな顔をさせてばかりいる。


詩のことを心から愛しいと思ってきた綾人。



ただの幼馴染としてだけではない。


詩に対してしか抱いたことのない、特別な感情だった。


しかし、主治医として、自分の思いは消して接してきた。


─彼女を守ることができるのなら、自分は嫌われてもいい。


黒子に徹してでも、大切な詩がこれからも幸せに生きていけるよう、あえて厳しく接してきたつもりだったが…


綾人が言葉を失っていたその時、詩の病室からアラームが鳴り響いた。



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