一生分の、恋をした
その日、挿管によりひとまず一命は取り留めたものの、肺炎により、依然として危険な状態が続いていた。


このまま、ということも十分に考えられる状況だった。


それでも綾人は決して諦めなかった。


日中の勤務の後にも、病院に泊まり込みながら懸命の治療を続けた。



詩が危篤状態となってから5日後。


治療の甲斐もあり、併発していた肺炎も治り、呼吸状態が安定した。



ひとまず命の危機が去ったことに安堵する、綾人らスタッフたち。


しかし、詩の意識は戻らず、引き続き眠ったままだった。



呼吸も戻り、酸素マスクをつけながら穏やかな顔で眠り続ける詩。


また少し痩せてしまった顔。


今日も夜中に詩の様子を見に来た綾人が、悲しげな表情で詩の頭を撫でる。


「…詩、起きろ。酸素マスク、嫌いだろ。また、わがまま言っていいから…」


何も答えず、静かにベッドに体を預けている詩だった。




< 24 / 59 >

この作品をシェア

pagetop