一生分の、恋をした
「詩!!」


詩が教室に入ると、由羅が真っ先に駆けつけ、抱きついてきた。


「心配かけてごめんね、由羅。」


「本当だよ…大丈夫なの…?」


帽子姿で眉毛やまつ毛も薄くなった詩の姿にショックを受けた由羅。


そして何より以前にも増して痩せてしまった詩のことが、心配で仕方がなかった。


「また入院する必要はあるんだけど、今は落ち着いてるから安心して」


由羅が心配しないよう、努めて明るく振る舞う詩。


由羅と話しているところに近づいてきた颯太に、詩が声をかける。


「倒れた時、颯太くんが保健室まで運んでくれたって聞いたよ。本当にありがとう」


「いや、大変だったな。もう絶対無理すんなよ。」


「うん、ありがとう。迷惑かけてごめんね。」


「気にすんな」


颯太が詩の頭をポンポン、と優しく叩いた。


いつもの学校生活を思い出す。

久しぶりのクラスメイト、久しぶりの授業。


日常に戻れたような気がして、本当に嬉しかった。


だが、入院生活と抗がん剤治療で詩の体力は落ちており、登校初日は午前中授業を受けただけで体力の限界になり、保健室で休ませてもらった。



綾人が仕事の昼休憩中に病院を抜け出し、迎えに来てくれた車の中でも、詩はすぐに寝てしまった。


駐車場に着いても起きない詩。


助手席のドアを開け、綾人が詩の柔らかい髪を撫でる。


それでも起きない詩を抱えようと、綾人は手を伸ばす。

「よっと…軽いな…小学生かよ」


眠る詩を抱える綾人が、詩の軽さに驚く。


180cmある綾人が、150cmに満たない詩を抱いていると、大人と子供に見える。


軽々と家まで行き、詩をベッドに運んだ綾人。


寝ている詩にそっと聴診器をあて、呼吸音がおかしくないことを確認してから、綾人は再び職場に向かった。


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