一生分の、恋をした

「詩、大丈夫か!?」


綾人が詩を抱きしめながら叫ぶが、反応は無い。


急いで詩を床に寝かせ、脈を取り、胸に聴診器を当てる。


意識は無いものの、脈もあり、喘鳴も少し治ってきていることに少し安堵する綾人。


しかし、体が信じられないほど熱く、明らかに熱が上がってしまっていた。



「ごめん、詩…しんどかったな…」


一時退院の間ですら詩を守りきれなかったことを悔やみながら、詩を強く抱きしめる綾人。


詩の熱い吐息と、トクン、トクンと早いリズムで脈打つ鼓動が感じられる。


「…詩、大丈夫だからな。」


瞬時に自分がすべきことに頭を切り替え、詩を手に抱えて急いで車に乗り込む。


「詩は嫌だろうけど…このまま入院しような」



七岡総合病院まで車を飛ばす綾人だった。



途切れ途切れの意識の中で、詩は綾人の存在を近くに感じる。


─大きな体に抱きしめられた時の安心感と、温かい体温。

服からは、ほんのり消毒液の匂いがした。


綾人の声がする。何度も名前を呼ばれている気がする。



初めて会った時から、憧れだった人。


そんな大事なことを、ずっと忘れてしまっていた。


いや、どうせ"妹"としか見られていないと思って、気持ちを封印していたんだった。


やっと恋人になれたのに、こんな情けない姿ばかり見せてしまう。


大丈夫だよ、と抱きしめ返したかったけど、体が動かない。


意識がない姿なんて、見られたくない。


大好きな綾人に心配をかけてしまうこんな体なんて、大嫌いだ…


綾人…ごめんなさい…


車に揺られながら、また意識が途切れた。




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