一生分の、恋をした
辛そうな綾人の様子にいてもたってもいられず、目を開ける詩。
「綾人……?」
「あぁ、詩…気がついたか。よかった…」
目が赤いのに、取り繕っている笑顔が、見ていてつらい。
綾人が淡々と話す。
「少ししんどそうだから、このまままた無菌室に入ろう。予定より少しはやいけど、白血病を完全に治すために、2回目の抗がん剤治療も始めていこうな」
─再発しているということを詩が聞けば、きっと大きなショックを受けてしまう。
またあの苦しい治療を受けるのに、今は絶望からスタートさせてしまってはいけない。
そんな思いから、綾人はあえて再発の告知をしなかった。
詩は、綾人の優しい嘘を全てわかった上で、何も知らないふりをし続ける決心をした。
「わかった。頑張るね」
心から思い合っているからこその、お互いの優しくも苦しい決断。
─もう弱音は吐かないよ。だから心配しないで、綾人。
詩は、再発のショックを隠しながら、闘う覚悟を決めた。