一生分の、恋をした
無菌室に移された頃には、夜中の3時になっていた。


─また無菌室に戻ってきちゃったな。


正直、治る見込みもないまま、またあの治療を受けないといけないなんて、逃げ出したくなる。


でも、私は綾人をこれ以上悲しませたくない。



前向きに治療に取り組んでいるところを見せて、安心させたい。



そういえば、解熱剤を投与してもらったせいか、少し体か楽になってきた。


落ち着いたら、少し眠くなってきた。


うとうとしていると、綾人が部屋に入ってきた。



「詩。起こしたか。ごめん」


「ううん…会いたかったよ。また倒れて迷惑をかけちゃって、ごめんね」


「いや、俺も無理をさせてすまなかった」


「そんなことないよ…綾人、もう真夜中だから、ちゃんとお家に帰って眠ってね」


「自分がしんどいのに、俺のことばかり気にするな」



綾人が頭を撫でているうちに、詩が眠り始める。


長いまつげが閉じられる。


幼馴染のひいき目無しにしても、かなりの美人に育った詩だが、寝顔は子供の時と変わっていない。



熱のせいか、まだ少し頬が赤い。



「クソ、なぜなんだ…」


やっと一時退院できるまでに状態が良くなったと思った矢先の再発。


再発を繰り返すごとに、生存率は下がっていく。



詩の病気は、白血病の中でも治療が難しい型だということは、あらかしめ検査で判明してはいた。


しかし、こんなに早く再発してしまうとは。


無力感を覚える綾人だった。


詩の心配もよそに、綾人は家には帰らず、治療に関する論文を読み漁るため医局に戻っていった。



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