一生分の、恋をした
5年後
─5年後。
綾人は、血液内科の学会で行われた、論文表彰式の壇上にいた。
綾人が執筆した、予後不良型の急性リンパ性白血病に関する治療についての論文が表彰されたのだ。
挨拶をする綾人。
「私は5年前、妻を同じ型の白血病で亡くし、それがきっかけとなって研究を始めました。この病気が、近い将来、確実に完治する病気になるように、これからも尽力します」
表彰式には、陸と萌音の姿もあった。
この5年間、詩を失った反動から、体を壊しそうなほど仕事に打ち込んでいた綾人のことを、ずっとそばにいて見守ってくれた2人だった。
表彰式の帰り、綾人は詩のお墓に寄った。
「…詩。また由羅ちゃん達と会ってたんだな」
備えられていた花を見て、由羅と颯太が来たことを察する。
5年前の詩の葬儀の日、詩が純白のウエディングドレス姿で棺に入っている姿を見た由羅が、颯太に抱えられながら泣き崩れていた姿を今でも思い出す。
しばらくは、由羅は親友を失った喪失感から受験勉強に手がつけられなかったと聞いた。
しかし、その後2人とも医学部に合格したと報告をくれた時は、本当に嬉しかった。
先日、医学部5年生の2人が、入籍したという連絡があった。
「今日はいい報告に来てくれたんだろ。良かったな」
海が見える小高い丘に、心地いい風が吹く。
「そうだ。この前また、詩と同じ型の患者が寛解して元気になって自宅に帰っていった。詩と同じ18歳だった。本当に嬉しかったよ」
「…でも、俺は詩のことも助けたかった」
目頭を押さえる綾人。
それまで曇っていた空から急に光がさし、綾人を照らす。
いつも詩の笑顔が太陽のように自分の心を照らしていてくれていたことを思い出した。
「ごめんごめん。いつまでも落ち込んでたら心配するよな。1人でも多くの患者を救うために、前を向いて頑張るよ。」
「それと…最後に言われた"いい人見つけろ"っていうのは、やっぱり無理だ。そっちに行ったら、また一緒に暮らしてくれるか」
「…詩、愛してるよ。また来るからな」
立ち去ろうと綾人。
その時、急に風が吹き、後ろから抱きしめられたような感覚になる。
思わず振り向くが、後ろには誰もおらず、美しい景色だけが広がっていた。
「…詩。いつも見守ってくれてありがとうな」
微笑みつつ、少し名残惜しそうに歩いていく。
医師として、病気との闘いが続く。
しかし、そんな忙しい毎日の中でも、綾人の心は、一生分愛し合った詩との日々で満たされていた。
「綾人、愛してる」
忘れることのできない、忘れたくない声を胸に、綾人は今日も病院に向かっていった。
綾人は、血液内科の学会で行われた、論文表彰式の壇上にいた。
綾人が執筆した、予後不良型の急性リンパ性白血病に関する治療についての論文が表彰されたのだ。
挨拶をする綾人。
「私は5年前、妻を同じ型の白血病で亡くし、それがきっかけとなって研究を始めました。この病気が、近い将来、確実に完治する病気になるように、これからも尽力します」
表彰式には、陸と萌音の姿もあった。
この5年間、詩を失った反動から、体を壊しそうなほど仕事に打ち込んでいた綾人のことを、ずっとそばにいて見守ってくれた2人だった。
表彰式の帰り、綾人は詩のお墓に寄った。
「…詩。また由羅ちゃん達と会ってたんだな」
備えられていた花を見て、由羅と颯太が来たことを察する。
5年前の詩の葬儀の日、詩が純白のウエディングドレス姿で棺に入っている姿を見た由羅が、颯太に抱えられながら泣き崩れていた姿を今でも思い出す。
しばらくは、由羅は親友を失った喪失感から受験勉強に手がつけられなかったと聞いた。
しかし、その後2人とも医学部に合格したと報告をくれた時は、本当に嬉しかった。
先日、医学部5年生の2人が、入籍したという連絡があった。
「今日はいい報告に来てくれたんだろ。良かったな」
海が見える小高い丘に、心地いい風が吹く。
「そうだ。この前また、詩と同じ型の患者が寛解して元気になって自宅に帰っていった。詩と同じ18歳だった。本当に嬉しかったよ」
「…でも、俺は詩のことも助けたかった」
目頭を押さえる綾人。
それまで曇っていた空から急に光がさし、綾人を照らす。
いつも詩の笑顔が太陽のように自分の心を照らしていてくれていたことを思い出した。
「ごめんごめん。いつまでも落ち込んでたら心配するよな。1人でも多くの患者を救うために、前を向いて頑張るよ。」
「それと…最後に言われた"いい人見つけろ"っていうのは、やっぱり無理だ。そっちに行ったら、また一緒に暮らしてくれるか」
「…詩、愛してるよ。また来るからな」
立ち去ろうと綾人。
その時、急に風が吹き、後ろから抱きしめられたような感覚になる。
思わず振り向くが、後ろには誰もおらず、美しい景色だけが広がっていた。
「…詩。いつも見守ってくれてありがとうな」
微笑みつつ、少し名残惜しそうに歩いていく。
医師として、病気との闘いが続く。
しかし、そんな忙しい毎日の中でも、綾人の心は、一生分愛し合った詩との日々で満たされていた。
「綾人、愛してる」
忘れることのできない、忘れたくない声を胸に、綾人は今日も病院に向かっていった。