一生分の、恋をした
まだぼんやりしている様子の詩の頭を綾人が撫で、手を握る。


「…綾人……?私…どうしたの…?」


詩がかすれた声で綾人に尋ねる。


「ここは病院だ。さっき学校で意識を失って、救急車で運ばれてきたんだ。血液検査では重度の貧血だったし、少し発熱もあった」


「え…」


「覚えてないか」


ぼんやりとした記憶をたどる詩。


「…今日は特に目眩がひどいなと思ってたんだけど…迷惑かけてごめんなさい」


大事になってしまった恥ずかしさから、綾人から目を逸らして話す詩。


真剣な表情で綾人が話す。


「"今日は特に"ってことは、前からよくあったのか?」


「…2週間くらい前から、たまにあったかな」


「なんで相談しなかった」


「テスト勉強とかで最近ちょっと忙しかったから、疲れてるのかもと思って…でも、もう大丈夫だから…私、帰るね」


急いで起きあがろうとする詩を、綾人が強い力で止める。


「待て。頭も怪我してるし、発熱もあるし、今日は入院させる。それに、このたくさんのアザはなんだ」


「え?」


服をめくられ、腕のアザを見せつけられる。


─そういえば、最近腕や足のぶつけた覚えのないところにもアザができてるなとは思ってたけど…


「…わからない。気づいたらできてたの」


「お前…何か変わったことがあったら連絡しろってちつも口酸っぱく言ってただろ」


だんだん口調が強くなる綾人を前に、体が固くなり、詩は喉の奥が狭くなってくるのを感じる。


─まずい。喘息だ。


「ごめんなさい……ゲホッ…ゲホゲホッ…」


必死に息を整えようとする詩。


「吸入薬は?」


「ゲホッ、カバンの外側のポケットの中…」


咳き込む詩に吸入薬を吸わせながら、詩の上体を支え、背中をさする綾人。


「先生、今日はもう休ませてあげましょうか」


看護師の永野 萌音(ながの もね)が、いつ冷静な綾人が感情的に怒る様子に驚きつつ、牽制する。


吸入薬のおかげで咳がおさまった詩だが、かなり疲れた様子で顔色も悪い。


「今日はとりあえず休もう。詳しく検査したいことがあるから、入院して、明日朝から検査しよう」


弱々しく頷く詩。


綾人が酸素マスクのズレを直しているうちに、詩は発熱と喘息発作の疲れもあり、すぐに眠ってしまった。


バイタルが安定していることを確認し、綾人と萌音はベッドから離れた。







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