聖女になれなかったので魔法大国へ留学することにしたら、まさかの再会が待っていました

「……まだ最後の仕上げが残っている」
「最後の仕上げ、ですか?」

 ルーカスはポケットから何かを取り出した。
 その手つきから、とても大切なものだということがわかる。

「左手を出してくれないか?」

 マルティーナは手のひらを上にして差し出した。
 言われた通りにしたというのに、なぜか苦笑されてしまった。

「反対だ。手の甲を上にして」

 頓着せず、くるりと手首を返した。

 すると、ルーカスが恭しくマルティーナの手を取った。
 それから、マルティーナの薬指に、ぎこちなくそれを通した。
 ルーカスの指先から、ルーカスの緊張が伝わってくるようだった。

(この場面、この指輪……あのときとそっくりだわ!)

 『あのとき』とは、アーロンとヴァレリアの結婚式のことだ。
 国王の体調が芳しくなかったから、最小限の簡素な式だった。
 そのお陰で、アーロンと自分のためだけの儀式なのだと強く感じられた。

 アーロンは緊張して、不機嫌そうにむっつりしていた。
 そうして、ぎこちない手でゆっくりと指輪をはめてくれた。
 ヴァレリアにとっては宝物のような記憶──
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