聖女になれなかったので魔法大国へ留学することにしたら、まさかの再会が待っていました



 マルティーナは前向きな気持ちで、ドアを開けた。

「失礼しま……す」

 教師たちはまだ来ていないようで、研究室の中には学生がひとりいるだけだった。
 軽く上がっていたはずのマルティーナの口角は、一瞬のうちに下がってしまった。

(どうして選りに選ってこの人が!?)

 係ることがないように距離を取ろう、と決めていた人物だった。

「僕も研究に立ち合わせてもらうことになっているから、これからよろしく」

 しかし、相手は第3王子だ。
 すぐにでも『こちらこそよろしくお願いします』と頭を下げるべきなの理解していた。
 それでも声は出なかった。

(私は『聖女ではない』とはっきり訂正したはずなのに、どうしてルーカス殿下が立ち合いなんて……はっ! もしかして、まだ聖女だと思い込んでいるのかしら? あらら? ということは、聖女の神聖魔法を期待されてる?)

 それは非常に困る。
 学院長はマルティーナの神学校での成績が散々なことは知っている、と思っていたのに──
 
(実際はたいしたことない治癒魔法しか使えないとわかったら、私はどうなってしまうの? まさか王子権限で国外追放とか?)

 血の気が引いていく。
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