無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

1章 14 旅立ち

「うう……まさか、侯爵令嬢であるリアンナ様が荷馬車に乗る日が来るなんて……」

ガラガラと走る荷馬車の上でニーナが嘆く声が聞こえる。

「そう? 確かに乗り心地は良くないけど幌を上げれば空がよく見えるし、風が運んでくる自然の香りがとっても癒やされると思わない?」

私は笑顔で、ニーナと御者台で面白く無さそうに手綱を握るジャンに語った。
二人は荷馬車が気に入らないみたいだが、私は最高に気分が良かった。

実は私には夢があった。
澄み渡った青空の元、大自然に囲まれた一本道を荷馬車でどこまでも進んでいく……そんな夢を見ていたのだ。
それが今現実となってか叶ったのだから、こんなに嬉しいことはない。

「はぁ〜……リアンナ様は能天気ですね……俺はまさか自分が荷馬車の御者になる日が来るとは思いませんでしたよ」

溜め息をつくジャンをニーナが咎める。

「ちょっとジャン! リアンナ様に失礼でしょう? いくら何でもリアンナ様が急に庶民的になったからといって」

「おい、別に俺は庶民的になったとは言っていないぞ? ニーナが勝手に言った言葉だろう?」

「何ですって!?」

「何だよ!」

ついに二人は口論を始めてしまった。

「ちょっと待って二人共! 恋人同士で喧嘩をしちゃだめよ!」

「「は!? 恋人同士!?」」

すると私の言葉に驚いたのか、息ぴったりに声を揃えるニーナとジャン。

「そうよ、二人は恋人同士でしょう?」

頷く私に、ニーナが心底嫌そうな顔を見せた。

「そんな筈無いじゃありませんか! リアンナ様、私とジャンは双子の姉弟ですよ? 気持ち悪いこと言わないでください」    

「え!? 双子だったの?」

言われてみれば、顔が……似ていない、ことも無い。

「そうですよ、リアンナ様。記憶喪失になったとはニーナから聞かされていましたけど……まさか俺とニーナが双子の兄妹だということを忘れていたなんて」

御者台上でため息を付くジャン。

「アハハハ……ご、ごめんね」

確かに双子の兄妹の関係なのに、恋人同士と思われたら気持ち悪くてしかたないだろう。

「それよりジャン。今の言葉は聞き捨てならないわね。私のほうが姉でしょ?」

「違うだろう? 俺のほうが兄だろう?」

「はぁ!?」

「何だよ!」

またしても喧嘩が勃発しそうになる。

「あー! 分かった! ストップ!! 喧嘩はしないの! 仲良くしましょう、仲良く。ね?」

「「はい……」」

でも双子か……家族はどうしたのだろう? そこで二人に質問してみることにした。

「ジャンとニーナは本当に私について出てきて良かったの? 家族だっているのでしょう?」

「家族は私とジャン二人だけですよ。小さい時に両親が亡くなって、マルケロフ家で庭師をしていた祖父に引き取られましたから」

「その祖父も5年前に亡くなりましたからね。もう俺とニーナが屋敷を去っても心配する家族はいないから大丈夫です」

私の質問にニーナとジャンが交互に答える。

「え……? そうだったの? ごめんなさい、何だか悪いことを聞いてしまったわね」

「そんなことありません、リアンナ様」

「そうですよ。気にしないで下さい」

笑顔を向ける二人。
それでも住み慣れた屋敷を離れるのは寂しいに違いない。だとしたら、尚更私は二人の面倒を見てあげなければ。

「ところで、リアンナ様。とりあえず、町は出ましたが次は何処へ行くつもりですか?」

手綱を握りしめたジャンが尋ねてきた。

「そうね……それじゃ、港がある町に向かいましょう」

「港ですか?」

「どうして港に行くのです?」

ジャンとニーナが首を傾げる。

「港へ行けば、船に乗ってもっと遠くへ行くことができるでしょう? 少しでもマルケロフ家から遠く離れたいのよ。それに世界を回ってみたいしね」

「すごい! 何だか壮大な旅になりそうですね!」

「私、何だかワクワクしてきました」

嬉しそうに笑う二人。

「そうでしょう? 私も楽しみよ。それじゃ、港を目指しましょう!」

「「はい!!」」

こうして私達を乗せた馬車は、港目指して進み始めた。

後をつけている人物がいるということに、気づくこともなく――




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