無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

1章 4 見送りと迎え

「そ、そんな……」

震えながら鏡に近づき、改めて自分の顔をじっと見つめる。

「どうしたのですか? リアンナ様?」

背後でカインの戸惑うような声が聞こえるも、今の私はそれどころではなかった。

「な……」

「え?」

「な、なんって美人なのぉ〜っ!!」

「は?」

「波打つような栗毛色の髪、色白で彫りの深い顔立ち。何と言ってもまるで宝石のような緑色の瞳……! 美しすぎるわ!」

鏡の前にへばりつき、自分の今の顔をうっとり眺める。

「あ、あの〜……リアンナ様……?」

何処か呆れた様子のカインが鏡に映り込んでいる。

「あ、すみません。つい、見惚れてしまって……申し訳ございません。では参りましょうか?」

慌てて我に返る私。

「は、はぁ……では行きましょう」

「はい」

こうして私は再びカインに連れられて城の出口まで案内された――


「この扉から外に出ることが出来ます」

アーチ型の木製扉の前に到着すると、カインが私を振り返った。

「そうですか……ありがとうございます」

カインに礼を述べるも、今の私は不安でいっぱいだった。殿下に出て行けと言われて、あの会場から出てきたまではいい。

けれど、ここを出たとして……私は一体何処へ行けばいいのだろう?
自分の名前と身分は分かったものの、それ以上のことは何も分からない。
年齢も、家族のことも……それに、何処に住んでいるかも。

かと言って、あのパーティー会場にもいられるはずはなかった。
殿下には憎悪の目で見られ、出席者たちは全員が私に蔑みや敵意の込められて目で睨みつけているのだから。

唯一の救いは……私をここまで案内してくれたカインだけだろうか? 
彼だけは私に対し、敵意を露わにすることはない。

「どうしたのですか? お帰りにならないのですか? それに何だか顔色がすぐれないようですけど?」

カインが尋ねてきた。

「い、いえ。帰ります。ここまで送って頂き、ありがとうございました」

自分で扉を開けようとすると、カインが引き止めた。

「この扉は女性が開けるには大変です。僕が開けますよ」

カインは私が返事をする前に、大扉を開け放してくれた。

「ご親切にお見送りして頂き、ありがとうございます」

再び、御礼を述べるとカインが神妙な顔つきになる。

「あの……リアンナ様……」

「はい、何でしょうか?」

リアンナという名前は全く自分の名前に思えなかったが返事をした。

「いえ。何でもありません。どうぞお気をつけてお帰りください」

「は? はい」

カインに見送られながら、扉を通り抜けるとバタンと音を立ててすぐに閉ざされてしまった。

「……ふぅ。これからどうすればいいのかな……」

私の眼前には、まるで広場のような広大な敷地が広がっている。その先には敷地を取り囲んだ城門が見える。

「とりあえず、あの門まで歩くしか無いわね……」

ため息をつき、数百メートルは先にあるかと思われる門を目指して歩き始めた。


****

「うう……本当に遠いわね……」

歩きにくいドレスに、履き慣れない靴で歩き続け……ようやく半分程門まで距離が近づいた頃。

開かれた門から、1台の馬車が近づいてくる様子が見えてきた。

「すごい! 馬車だわ!」

本物の馬車など、見るのは初めてだ。感心していると、馬車はどんどんこちらへ近づき、手綱を握りしめている青年の姿も見えてきた。

「ふ〜ん。あの人が御者ね。誰かを迎えに来たのかな?」

馬車はまっすぐ私の方に向かって走ってくる。

あれ? 何だかこっちに向かって近づいてきている……?

そう思った矢先。

「リアンナ様ーっ!!」

御者の青年が突然大きな声で私の名前を呼んだ。

「え? もしかして私を迎えに来たの!?」

すると案の定、馬車は私の直ぐ側で止まった。

「リアンナ様……やはり追い出されてしまったのですね? 待機していて良かったです」

青年は憐れむような視線を私に向ける。

「え?」

もしかすると、この人物は私のことを良く知っているのだろうか?
なら、尋ねるしかないでしょう!?

「あ、あの……」

口を開いた途端。

「リアンナ様っ!」

突然馬車の扉が開かれて、メイド服姿の若い女性が姿を現した。

「え? メ、メイド!?」

女声は馬車から降りてくると、涙目で私の両手を握りしめてきた。

「リアンナ様……旦那様がなんと仰るかは分かりませんが……とりあえず、屋敷に戻ってみましょう」

「ええ、そうです。誠心誠意を持って懇願すれば、旦那様もお許しになっていただけるかもしれません!」

御者の青年の顔は悲壮感が漂っている。

え? 一体どういうこと!? 状況がさっぱり分からないのですけど!

「アハハハ……そ、そうね……」

果てしなく嫌な予感を抱きながら、笑って返事をするしか無かった――
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