無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

4章 7 心配しても始まらない

 私達は、大急ぎで『カンナ』の町を出発する準備をしていた。

「ほら、ジャン! さっさと荷物を運びなさいよ!」

「何だよ! そういうニーナだって、早く荷造りを済ませろよ!」

相変わらずジャンとニーナの口論は絶えない。けれども、2人とも手や身体はしっかり動かしているから大したものだ。

「はぁ〜……残念だったわ……この町でもマジックショーを披露しようと思っていたのに……」

荷造をしながら、思わずため息が出てしまった。

「リアンナ様のお気持ちは分かりますが、あの騎士達がこの町にいる以上、一刻も早く立ち去るべきです。彼らも伝書鳩を使いますから殿下に連絡しているはずです」

荷物を運んでいたカインが話しかけてきた。

「え? そうなの? だったら急いだほうが良いわね」

「はい、殿下の本当の目的が分からない今は少しでもこの町から遠くへ離れないといけません」

「だったら汽車を使えばいいのではありませんか? 確かこの町にも駅はありましたよね?」

「俺もニーナの意見に賛成です。お金の心配なら大丈夫ですよね? 何しろ伯爵位のカイン様がいるのですから」

どこか、嫌味を含んだ言い方をするジャン。けれど、カインは気にも止める様子が無い。

「汽車か……あまりおすすめはしませんが、この町には鉄道が走っていますね。では試しに駅まで行ってみませんか?」

「おすすめはしない? もしかして汽車に何か問題があるの?」

カインのどこか含みをもたせた言い方が妙に気になる。

「いえ、汽車に問題があるわけではありません。とりあえず行くだけ行ってみましょう」

「う、うん。そうね……」

そして荷造を終えた私達は駅へと向かった――



****


「……やはり、駄目ですね」

マントのフードを目深に被ったカインが建物の陰から駅を見つめて呟いた。

「駄目って? 何が駄目なの?」

私は荷馬車の上からカインに尋ねた。

「駅の前に2人の騎士が立っています。彼らは僕の顔見知りです」

「まさか、さっきカインが倒した騎士たちなの?」

「いえ。後をつけていた騎士たちとは別ですね」

「え!? 他にもまだ追手がいたんですか!?」

御者台のジャンが驚きの声を上げる。

「そ、そんな……」

ニーナの顔が青くなる。

「やはり汽車は使わないほうが良さそうですね。荷馬車で旅を続けましょう。多分この様子では次の駅でも待ち伏せされているかもしれません。幸い、この町には行商の馬車が多数出入りしています。彼らに混じって町を出れば、恐らくバレることは無いはずです」

なるほど、カインは先回りされているときのことを考えていたのか。

「確かに、そうかもしれませんね。それに考えてみれば荷馬車もあるのに、汽車に乗るのは難しいですし」

「う! た、確かに……貨物車両に荷馬車まで乗せてくれるかどうか怪しいし……」

ジャンが悔しそうに手綱を握りしめる。

「それじゃ、決まりね。荷馬車の旅を続けましょう」

「「「はい」」」

私の言葉に3人は返事をした――



****


「はぁ〜やっぱり、荷馬車の旅は良いわね〜」

荷馬車の上から、青い空を見上げて私は伸びをした。

「リアンナ様は呑気ですね……こっちは殿下の騎士たちに追われているかもしれないと思うと、気が気じゃないっていうのに……」

御者台のジャンがため息をつく。

「でもこれだけ多くの行商人たちの馬車に紛れていれば気づかれないんじゃないかしら? どうせこの国を出てしまえば、騎士達だって追って来ないんじゃないの?」

ニーナはジャンに比べれば、楽観的だ。
確かに、そうかもしれないけれど……。

私は馬に乗っているカインをチラリと見た。

カイン……これからどうするのだろう? 他の護衛騎士を相手に戦ってしまったのだから、殿下に歯向かったことになってしまうのではないだろうか?

すると私の視線に気づいたのか、カインがこちらを向いた。

「リアンナ様、どうかされましたか?」

「う、うん。カインは大丈夫なのかなって思って」

「大丈夫とは、どういう意味でしょうか?」

「ほら、他の騎士たちと戦ってしまったから殿下に歯向かったとみなされるんじゃないかと思って」

「僕のことなら大丈夫です。心配してくださって、ありがとうございます」

カインはニコリと笑みを浮かべる。

「そうですよ、カイン様なら大丈夫でしょう。まずはご自身の心配をされるべきですよ。何しろ、聖女様も騎士たちは探しているのでしょう?」

確かにジャンの言うとおりかもしれない。カインは殿下直属の騎士で、とても強い。
私が心配しても始まらないのだから。

「それもそうね。気をつけるわ」

でも私が聖女様と呼ばれているとは、殿下は夢にも思わないだろう。第一、仮に聖女の正体が私だと知れば興味を無くすに決まっている。何しろ殿下は、私をとても嫌っているのだから。

この時の私は楽観的に考えていた。
けれどその考えは誤りだったと、後に身を持って知ることになる――


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