ミステリH
ミステリH ⑧
ハミルは顎やや右上、目線左下のキメ顔を決めていた。
あれから約1ヶ月が過ぎていた。
5月22日のラブレター。
カレンダーは6月26日になっていた。
我儘な妄想の末にチナナのことが好きだ、という本心にたどり着いたハミルは覚悟を決めた。
ラブレターの犯人探しに協力してくれたタスイには、礼を告げて、犯人探しを一旦中断することにした。
チナナへの想いに集中した。
しかし、一月がただ過ぎ去った。
気持ちは満たされていたが、勇気が満たなかった。
何度もあのポーズを練習したから、仕事中に出てしまうこともあるくらいだった。タクシーのお客さんに顎右上目線左下を繰り出して気味悪がられたりした、一月だった。
いつもそうだ。
本当に好きな女には告白できない。
変わらなくてはいけない。
40歳になったんだ。
ハミルは結婚願望が強かった。
年齢もいい頃合いになったから、もしチナナと交際できたら結婚を申し込むつもりだ。
ハミルに近しい女性たちは、なにやらハミルENという風変わりな家族体系をとっていて結婚ができないなどということを、認識していた。
結婚して家庭を築くのがハミルの夢だから、それは実現したい。人生なんだ。チナナをそのENから引き摺りだす覚悟も決めた。
自分の名前と響きが同じなことに、ほんの不気味さを感じた。
・・・
指先が震えた。
いざとなると、弱気が出る。
(チナナ、元気?
伝えたいことがあるので会えませんか)
意を決した。
6/26(水) 19:00
・
22:00
・
(ハミル、久しぶりだー。
仕事だったよ、返事遅くなった。
うん、いいよ、いつ?)
(29日の土曜日はどう?)
(仕事だな。7月2日(火)は?)
(大丈夫。ありがとう)
ハミルは
7月2日は前日の21:00から夜勤で6:00までだ。
(チナナの家の近くの公園で会えませんか。17:00)
告白できなかった過去。
食事に誘い想いを告げようとしたあの日。
サバサバした相手の態度に、脈なしと勝手に判断して、怖気付き、弱虫になったあの時の二の舞を踏まないために。
喋らせる前に、自分勝手に告げることにした。
(公園?いいけど。
いいの?うん、いいよ。17:00ね)
(ありがとう)
・・・・・・・ ・・
チナナとは4年前に出会った
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