モイラ --天使が犯した罪と罰--
「私は天使だから、触れることはできないわ」
「残念。天使様の羽根って、ふわふわしてそうだから触ってみたかったのに」
天使様の輪っかって、熱いのかな、冷たいのかな。
なんて、冗談を言うアイテルの琥珀の瞳に、私は映っていなかった。
どうしてアイテルは私の姿が見えるのだろうか。
疑問はやがて言葉に形を変えて、ぽろっと私の口から漏れていた。
アイテルはその声を聞き逃さなかったのか、また麗しく微笑んでみせた。
「俺は、この【ヘメラ】で神聖なものとして崇められている。
人間と神様の中間だから、天使様が見えるんじゃないかな」
「そう……」
「天使様の質問に答えたから、俺からも質問にしてもいい?」
「構わないわ、答えられる範囲であれば」
隙間風でふわりと天使の羽根が舞う。
その天使の羽根が1枚地に落ちたとき、貴方は悲しげな顔をして俯いた。
「──ねぇ、天使様。
君は俺に罰を与えるために、ここに来たの?」
全ての運命が最初から分かっている、と言いたげな顔をして、貴方はそこに立っていた。
私は、「そうよ」と呟いた。
だって、何一つ間違ってなど、いないのだから。