モイラ --天使が犯した罪と罰--
しかし、彼は予想以上にカリスマ性があった。
それは上へのしあがるには、十分すぎる才能であるだろう。
「…わ、たし」
声が震える。
私は今、何に怯えている?
秘密を打ち明けること?
それとも──……彼から逃れられないこと?
「ユマさん、俺と取引をしようか」
にっこりと微笑まれ、私は有無を言わず首を縦に振るしかなかった。
まるでクロイは、蛇のようであった。
立ち向かうには恐ろしく、決して人間では倒すことができない、大きな蛇。
「……取引、ですか?」
「そう。俺の言うことを聞いてくれたら、今日のことは黙っていてあげる」
「………」
「だって君、俺に秘密を打ち明けることは難しいんでしょ?」
「そうですけど……」
クロイの手は私の頬をそっと撫でる。
唇に近い指に思わず鳥肌が立ってしまい、私はごくりと生唾を飲み込む。
もう、何でもいいから条件を呑もうと覚悟する。
彼は口を開いた。
それは私にとって、新たに紡がれた運命の糸であった。