モイラ --天使が犯した罪と罰--
「そうか、やっとこの時が来てくれたんだ」
祭壇が陰りを帯びる。
「……貴方、死にたいの?」
「そうだと言ったらどうする?」
ぎりっとバレないように歯を食い縛る。
──誤算だった、死にたいだなんて。
大天使様の命令通り、【ヘメラ】を解体するためには…アイテルを利用するしか他無かったのに。
計画が白紙になってしまったことで、頭がすうっとミントを吸ったかのように、切れ味が良くなっていく。
もう、ならどうでもいいかと投げやりな言葉を投げ掛けるかのように、私はただ「そう」とだけ呟いた。
「天使様、天国ってどんなところなの?」
「教える必要があるかしら」
「意外に君って冷たいんだね、教えてくれたっていいじゃないか」
「人間は天国に対して色んな解釈をする。
だから、教えてあげないの」
「そうか、じゃあ君の好きな食べ物は?」
下らない質問が飛び交うが、私は答えることができない。
だって知らないもの。
私の好きなものも、嫌いなものも、全て常世に導かれた瞬間に消えてしまったもの。