モイラ --天使が犯した罪と罰--
クロイがフォンダンショコラを、フォークで切り分ける。
とろりと溢れ出すチョコレートが熱気を帯びて、酷く甘い匂いが私を戸惑わせた。
私は私のはずなのに──…自分の心臓の秘密を知らない。
私のことすらもあやふやで、自己が理解できない
理性と自我の間で揺れる私に、まるでクロイは丁度よく運命の糸を紡いでくれている。
「人体に悪影響なことはしないよ。
だから安心して」
「………」
私はぎゅうっと服を手で握りしめた。
私は私のことを、知りたいと思っている。
アイテルが最期に私の名前を呼んだことは、偶然では無いことにも気付いている。
けれど私は全てを知ってしまうことに、少なからず恐怖心はある。
自分自身の墓を掘り起こすような、まさに今、禁断の扉を開けようとしているところなのだ。
「どうして私なんですか?」
クロイは少し考えて、ぽつりと話した。
「君みたいな人にずっと会いたかったから」