モイラ --天使が犯した罪と罰--
ふと頭に浮かんだのは、真っ白な部屋だった。
カーテンも、ベッドも全て真っ白。
消毒液の匂いが鼻腔に広がり、私の意識はそこにあった。
ホワイトルームに、クロイと私はいた。
クロイは私に言う。
『ユマさん、君は生きたい?』
私は頷きもせず、ただただクロイを見つめるだけ。
彼の瞳が水面のように、揺れているのに気付いているくせに、私はホワイトルームをぼーっと見つめる。
『ユマさん、応えてくれ……頼む』
これは、記憶なのだろうか。
少なくとも私は、このホワイトルームの存在を知らないし、クロイの悲痛な表情も知らない。
──ああ、クロイさんってこういう顔をするんだ。
そう私が感じてしまうのは、意識が現実と近くあるからなのだろうか。
でも私はどこか懐かしさを感じている。
「ユマさん」
クロイに再度そう呼び掛けられ、私の意識は現実へと引き戻される。
私の心臓は切なく痛みを発して、一瞬だけ苦しくなる。
私の様子を伺いながら、クロイは話を進めていく。
それを頷きながらただ聞いていた。
そうすることしか、私にはできなかった。