モイラ --天使が犯した罪と罰--
「大丈夫?ぼーっとしていたみたいだけど」
「……大丈夫です」
ホワイトルームがカフェへの光景へと変わっていくと、そこにいたクロイの表情も変化していく。
私は思わず彼に聞いた。
「【ユマ・オーウェン】は、クロイさんにとって特別な人なんですか?」
クロイは一瞬はっとしたような表情を浮かべるが、いつもの調子に戻っていく。
しかし、私はその一瞬で全てが分かってしまった。
きっと彼女はクロイにとって、かけがえのない人なのだと。
私にとっての、アイテルのように。
「時期が来たら話すよ、いつか、ね」
彼の言う“いつか”というのは、きっと何年か先のことを指すのだろう。
彼の表情は辛そうで、何かを抱えているに違いなかったのだ。
──【ユマ・オーウェン】は、もう亡くなっていると彼から聞いた。
もう二度と会えない人に想いを馳せるのは、私も同じだった。
もしかしたらクロイは、私と似て異なる、唯一の人物なのかもしれない。