モイラ --天使が犯した罪と罰--
「まさか、研究対象がレシピエントとはね」
私の胸元についたエコーゼリーを拭きながら、クロイは手術跡を見つめる。
アリアと私の目は密やかに揺らめいていた。
【ユマ・オーウェン】に瓜二つの容姿。
そして同じく──心臓移植をした過去。
目の前にいるクロイは、私のことをどう思っているのだろう。
「ユマさん、レントゲン撮ってもいいかな」
エコーゼリーを拭い終わった後、クロイは私と目を合わせずにそう言った。
しかしその声はあまりにも近く、そして遠くて、私はどこかクロイと心の距離を感じた。
「放射線室はこの棟の5階にあるから、撮ったらここに戻ってきて」
「はい」
「逃げちゃ駄目だよ」
そんなこと言われても逃げないのに。
念のためクロイから手書きの地図を受け取ると、私は迷いつつも放射線室へと辿り着く。
私がレントゲンを撮影している間、クロイとアリアは研究室で待っているようだ。