モイラ --天使が犯した罪と罰--
「アンタ、亡くなったカノジョの陰を追ってるんじゃないわよ」
ユマがそこにいない今、アリアはクロイへ想いをぶつけていく。
クロイは肩眉を吊り上げて、不服そうに呟く。
「都合のいい相手なら、こんなことしないよ」
「ユマはアンタの道具じゃないわ」
「……なに、家族気取り?」
クロイの溜め息は虚空に消え、アリアの眉間に皺が寄る。
一触即発の空気だ。
しかしお互いに想う相手は同じであるからか、いつも以上の争いにはならない。
「ユマさんって可愛いよね」
「そうだけど、何よいきなり」
「ちょっと我慢強いところがあるかなって、でも自分で何とかしようとするところが可愛い」
「アンタにユマの何が分かるのよ」と言いたげなアリアを制止して、クロイは立ち上がる。
窓辺に近づくと、壁に頭をこつんと寄せて、そのまま踞った。
「……どうして、死んでしまったんだろう」
顔も、性格も、境遇も何もかもそっくりなあの子が別人だなんて信じたくない。
けれどそれ以上に、最愛の人がいなくなってしまったことが受け入れられない。
クロイの弱った姿を見て、アリアはそれ以上何も言えなかった。
言ってしまったらきっと、クロイは壊れてしまう──…そう思ってしまったから。