モイラ --天使が犯した罪と罰--



しかしその問いが聞こえてきたのか、ユマはぴたりと歩みを止める。


何故そんなことを言うのか、と言わんばかりに彼女の背中には陰りが見えた。


不味い質問をしてしまったと、その時感じてしまった。


彼女は確かに天使みたいな存在だが──……非現実な存在ではないのだから。



「……なんでそんなことを言うんですか」



帰り道に一緒にジュースを飲もう、と分けあったオレンジジュースの缶が、ユマの手から滑り落ちる。


コンクリートから漂うオレンジジュースの香りが、妙に脳から離れられない。



「冗談に決まってるわよ…!
クロイにとっては、好きな人が戻ってきた感覚なんでしょうけど……」


「…………」



普通の会話になると思っていたそれが、緊迫感のあるものへと代わり、冷や汗をかいていた。


しかしユマはどこか冷静ではなかった。


寧ろアリアの問いに──困っているようにも見えた。



「ユマ、大丈夫?」



遅れて「はい」とユマは呟き、会話はそこで終了した。


そこから会話はなかったが、お詫びなのか、後からユマが寝る前にホットミルクを作ってくれた。


ユマの髪の毛と同じ色をしたホットミルクは、ほんのり蜂蜜の甘味を帯びていた。


< 153 / 167 >

この作品をシェア

pagetop