モイラ --天使が犯した罪と罰--
書き殴った日記をクローゼットの角に隠して、私は震える心臓でベッドに入る。
案の定眠れるはずなどなかった、それはアリアが核心に迫るようなことを私に言ったからだ。
目を閉じて必死に羊を数えるが、とうに100匹を越えてしまい、諦めて寝床から離れる。
その瞬間、窓にこんこんと音が鳴る。
音の発信源に近づくと、そこには見知った顔があった。
「こんばんわ~、眠り姫」
「……エリス」
エリスに会うのは、アイテルへの墓参り以来であった。
そっと窓を開けると、エリスは羽根を翻して私へと近づいてくる。
「久しぶり、センパイ。
今日も綺麗だね」
「何をしにきたの」
「やだなぁ、そんなに僕のことが信用できませんか?
久しぶりって言ってほしかったのに」
調子の良さそうなエリスに背を向けると、彼は私の背中へと手を伸ばし、そのまま私に抱きついた。
天界にいたときも、こうして抱きつかれることは多かったため慣れているが、不思議なことに余り気分が良くなかった。
「センパイ、あったかいなぁ……。
本当に人間になっちゃったんだ」
「嘘つき、天使は感覚を持たない。
何も感じていないはずよ」
「あはは、バレた?
でもセンパイは、僕の感触、分かるでしょ?」