モイラ --天使が犯した罪と罰--
「冷たいわ」
「夜風に当てられたからかなぁ。
ねぇ、センパイ。
ちょっと触っちゃ駄目?」
ダメという言葉を聞かずに、エリスは私の身体を触る。
首筋、鎖骨……胸元まで手が伸びた瞬間、私はエリスの手を叩いた。
「貴方、何を考えているの!?」
目を丸くするエリスだったが、すぐに憎たらしい笑みを見せる。
私は彼の考えていることは分からない。
それは天使の時からずっとであった。
「ねぇ、センパイ…冷たかった?」
「当たり前でしょ、そんなこと!」
「ふふ、そっかぁ……じゃあセンパイ、近づいてるね」
“ならず者”に。
そう耳元で呟いたエリスの吐息は、暖かくて、でも妙にくすぐったくて、私は思わず膝から崩れ落ちていた。
追い討ちをかけるように、エリスは私の耳元で囁き続ける。
“ならず者”。
“人間でも天使でもない”。
“現し世にあらわれた禁忌”。
“罰せられる存在”。
“地獄にすら行けない”。
“そこにいるだけで理を乱す”。
“存在することが罪”。