モイラ --天使が犯した罪と罰--



「冷たいわ」


「夜風に当てられたからかなぁ。
ねぇ、センパイ。
ちょっと触っちゃ駄目?」



ダメという言葉を聞かずに、エリスは私の身体を触る。


首筋、鎖骨……胸元まで手が伸びた瞬間、私はエリスの手を叩いた。



「貴方、何を考えているの!?」



目を丸くするエリスだったが、すぐに憎たらしい笑みを見せる。


私は彼の考えていることは分からない。


それは天使の時からずっとであった。



「ねぇ、センパイ…冷たかった?」


「当たり前でしょ、そんなこと!」


「ふふ、そっかぁ……じゃあセンパイ、近づいてるね」



“ならず者”に。



そう耳元で呟いたエリスの吐息は、暖かくて、でも妙にくすぐったくて、私は思わず膝から崩れ落ちていた。


追い討ちをかけるように、エリスは私の耳元で囁き続ける。





“ならず者”。


“人間でも天使でもない”。


“現し世にあらわれた禁忌”。





“罰せられる存在”。


“地獄にすら行けない”。


“そこにいるだけで理を乱す”。






“存在することが罪”。





< 156 / 167 >

この作品をシェア

pagetop