モイラ --天使が犯した罪と罰--



「“ならず者”……」



“ならず者”、神話の一部だからと、私は信じていなかった存在だった。


ならず者が出ている神話は、天使の中でもあまり話題にはしてはいけないと、むしろタブーとされていた神話であった。


神話として言い伝えられてはいけないと、そう言われていたほどの内容であったと、私は教えられた。


ならず者を簡単に言うと、“裏切り者”だ。


神話上、裏切り者など星の数ほどいたが……“ならず者”は別だ。



存在しているだけで、調和を乱す。


いなくならなければならない人物。


人間でも、天使でもなく、悪魔ですらない。





「殺さなければならない、存在」



そうエリスが囁いた時、私は戦慄した。


エリスの手が、私の首に当てられているのだ。


そのままエリスがぐっと力を込めたとき、私は思わずぎゅうっと目を閉じて、じたばたと足を動かしていた。


アイテルと同じ殺され方をされるのだと悟ったが、私は何故か全身でエリスに抵抗をしていた。


前まで死にたがっていたくせに、どうしてそんなと思った間際、エリスの手の力は緩んでいた。


私は苦痛でそのまま倒れ込み、嗚咽を漏らす。



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