モイラ --天使が犯した罪と罰--
「貴方、作り笑顔が得意なのね」
女性を見送った後、俺の天使様は皮肉るようにそう呟く。
流石に隠せないなぁ、と思い天使様には本物の笑顔を向けた。
「得意だよ、毎日のことだからね」
煌びやかで、それでいて窮屈な祭壇を住みかにしているのは、俺しかいない。
その祭壇に、悩める大人が続々と足を踏み入れて、俺に懺悔と救いを求める。
そして俺は、それに答える。その繰り返し。
それが俺──……アイテルの、
【ヘメラ】の神様 としての役目だった。
「天使様はお腹空かないの?」
「空かない。貴方って、食べ物のことばかり考えてるわね」
「俺にとって食事は娯楽なんだよ、昨日のジャガイモのポタージュは絶品だったなぁ」
「…確かに、ここにずっといたら娯楽なんて無いものね」
天使様と契約してから、今日で3日目だ。
相変わらず冷たいがそこがキュート……というのは、本人には内緒だ。
決して、軽くあしらわれるのが俺の趣味というわけではない。
「じゃあ、俺の横に座ってよ」
「うん」
天使様は時より口が悪くなったり、軽蔑した目を向けることはあるが、こうした俺の小さなお願いを聞いてくれる。
横にちょこんと体育座りになる天使様は、存在しているはずなのに、どこか異質で半透明だ。