モイラ --天使が犯した罪と罰--
困らせてしまっただろうか。
君は少し黙って、呟くようにこう言った。
「……ずっと天から見守ってる。
だから、勝手に1人で死なないで」
願うようにか細い声をした君を裏切れなくて、俺は「分かった」としか返事をすることができなかった。
君は羽根を大きく広げて、俺の姿を包み隠す。
今この瞬間だけ、この世界は、俺と君だけだった。
──この優しい世界を、守りたかった。
「……アイテル様は相変わらず傍観されています、欺くなら今かと」
「ああ、そうだな。やるなら…この1週間以内だろうな」
天使様と出会って、2週間が経った頃だろうか。
俺は地下で、若い信者同士が話し合っているのを聞いてしまった。
残虐極まりない【ヘメラ】の組織員たち、しかし最近では空中分解するように、信者同士で思想を分かつようになった。
大きくなりすぎた組織を総括できる程、創始者と俺は頭が無かった。
だから、今の今まで目を瞑っていた。
──ねぇ、天使様。
君がいなくても、【ヘメラ】はちゃんと壊れていくよ。
地下を後にして俺は、人生で初めて大きく笑った。
その後、頬に一筋の涙が伝った。
君との別れを、予感していた。