モイラ --天使が犯した罪と罰--
「…わ、た……」
人を殺してしまいました、なんて言えるはずもない。
喉が水分でぐるぐると鳴って、少しだけ酸っぱい。
胃液が上がってくる感覚がした。
「…私………」
頬から一筋の涙が溢れた時、初めて私は己の狡猾さと、残虐さに気づかされたのだ。
「…あら~、ワケアリみたいね。
なら大丈夫よ、なーんにも打ち明けなくていいわ」
アリアはそう言うが、深紅の瞳は陰りを帯びて、探求心を必死に抑えているようであった。
きっと私はアリアから見て、「道端で倒れていたボロボロの少女」であろうと信じて、そっと目を閉じる。
今は誰の瞳も見たくない。
アイテルを殺した時の、光を失った琥珀の瞳が、私を責め立てているような気がしているから。
「まだ顔が疲れているから、しばらく横になっていなさい。
しっかり休んだら、良かったら手当てをさせて頂戴ね」
「はい、ありがとうございます……」
アリアが離れて私は、再び横になり夢の世界へと入る。
夢の世界だって、私の安らげる場所ではなかった。
私の頭の片隅には、いつの間にか……アイテルがいるのだから。