モイラ --天使が犯した罪と罰--
「すごい…!」
「でしょう?
アタシこの街が大好きだから、ここで医者を始めたのよ」
「昼なのに、街全体が夜空みたいで素敵…」
「“昼”ねぇ……」
ふと何かを思い出したように、アリアは指先をハンドルにトントンと叩く。
「この街の悪いところを挙げるとしたら、【ヘメラ】があったことくらいかしらね」
夜の【ニュクス】と対の、昼を意味する【ヘメラ】。
そしてそんな【ヘメラ】にいた、夜明けを意味する【アイテル】。
どっと頭の中に、アイテルの声が雪崩れ込んでくる。
嬉しそうな声、悲しげな声、私を求める声、すべて。
声と共鳴するかのように、心臓が揺れて、ぎゅうっと締め付ける感じがする。
「本当に嫌だったわよ。
【ヘメラ】が存在したせいで治安も悪くなれば、人も変わっていったんだから」
「……確か、最近火災があって【ヘメラ】は無くなったんですよね」
「そうよ、よく知ってるわね~。
【ヘメラ】自体は森の中にあったから、助からなかった人が多かったでしょうね」