モイラ --天使が犯した罪と罰--
「アリアさん、私に出来ることがあったら何でも言ってくださいね」
例えば掃除とか、料理の手伝いとか、洗濯とか。
しかしアリアは首を横に振り、「そんなことしなくてもいいのよ」と遠慮する。
私たちはお互いを大切に思っているのに、お互いの距離を測れないほど遠くにいる気がしている。
「私が、何かお礼をしないと気が済まなくて…」
「だろうと思ったわ。
というか、多分皆そうだと思うわ」
「……なら」
「でも、だーめ。
ユマはアタシの側にいてくれるだけでいいの」
軽く背伸びをしたアリアは、何か思うところがあるのか、少しだけ虚ろな目をしていた。
海はそんなアリアの瞳とは対照的に、星のような輝きを帯びている。
「側にいてくれるだけでいいのよ…」
そう呟いたアリアの声は潮騒に消えたが、私は放っておけず、アリアの手の上に私の手を重ねる。
「優しいのね、ユマ」
私は優しくなんてないのに、そう言われると心が柔らかくなっていくような感じがして、少しずつ軽くなる。
2人の間には沈黙が流れた、潮騒混じりの沈黙だった。