モイラ --天使が犯した罪と罰--
「ユマ………いや、あの子はもう…」
ぼそぼそと独り言をし始めるクロイは、何かを思い出したように私に語り掛ける。
「オーウェン……。
君の名前は、ユマ・オーウェンだったりしない?」
違いますと首を横に振ると、クロイは少し落胆したような表情を見せる。
私は思わず、「ユマ・オーウェンはどんな人なんですか?」と質問をしていた。
「ここは病院だからあまり言えないけれど、長く通っていた患者さんだよ。
俺が主治医だったんだけど、手術のために転院したんだ」
ここは、循環器専門の特殊病院あるから、きっとその子は心臓病に違いないだろう。
私は思わず胸の上の傷をそっと触れる。
その子が転院したとするならば、その後の生死をこの人は知っているのだろうか。
「……手術は、上手くいったんですか」
不安半分で、クロイに聞く。
心臓が、震えるような感覚に陥る。
何故か心の中で、その子が“生きていますように”と願う自分がいたのだ。
しかし、期待は見事に壊されてしまう。
「手術は、上手くいったよ。手術はね」
遠い目をした彼の目線の先には、死の淵がそこにあって、私はそこへ引きずり込まれてしまいそうだった。