モイラ --天使が犯した罪と罰--
「あーあ、俺に任せてれば手術も経過もバッチリで退院させれたのに!」
「な、なるほど…?」
そう背伸びするクロイは、やっぱりちょっと私とは合わなくて、とりあえずの苦笑いをする。
恐らく医師としては自信家で、野心があるのだろう。
(でもちょっと何故か、変わってるのよね)
けれど、私が患者であればこの人に任せたい気も……している。0.1%だけ。
「ユマ~!作業終わったわよ!」
上機嫌で駆け寄るアリアに、私は手を振る。
見知った顔に安心し思わず顔が綻ぶが、アリアは隣のクロイを見ると、「げぇっ!?」と聞いたこともないような声を上げた。
「やっほ~、アリア。前の当直ぶりかな?」
「ヤダ、何でアンタがいるのよ!?
ユマ、今すぐお家に帰るわよ!」
「酷いなぁ、そんなに俺が嫌い?
君の症例を代わりに引き受けたのになぁ」
「“奪った”の間違いでしょうが!
研修医時代のアホ面晒すわよ!?」
「え~、それは困るなぁ。
俺のカッコいい所で頼むよ」
一触即発の空気を見るに、アリアとクロイはかなり険悪な仲であることが分かる。
たじろぐ私に見向きもせず、2人は舌戦を繰り返し、私はおろおろとその光景を見続けることしかできなかった。