モイラ --天使が犯した罪と罰--
「ユマをからかうんじゃ無いわよ」
さっとアリアが私の前に立って、牽制するようにクロイの話を遮った。
クロイの表情は見えなくなるが、彼の笑い声を聞いていると、嫌な予感がひしひしと伝わってくる。
「なるほどね、君はアリアのお気に入りな訳だ」
「そうよ、だからアンタはアタシの前から消えなさいよ」
「え~、ヤダ。消えない。
だって気になるよ、その子のこと」
「ユマさん」とクロイに呼ばれると、アリアはきっと彼を睨み付けて私の手を引っ張る。
「……帰るわよ、ユマ。逃げるが勝ちなんだから!」
べーっと舌を出すアリアの姿は何だか子供っぽくて、私も心の中でクロイに向かって舌を出す。
けれども私の思惑をクロイに見抜かれたのか、彼は不愉快そうに肩をすくめる。
「また会おうね、ユマさん。
アリアはもう来ないでね~」
「言われなくても仕事以外では来ないわよ!
アンタこそ研修で隣に座らないでよね!」
クロイの姿がようやく見えなくなると、アリアは全身の力が抜けるように地面に膝を付ける。
廊下の角でわりと大きめな溜め息をつき、クロイのことを相当嫌っていることが見るだけで分かった。