はじけて散っていくだけ
少しして止まったのは、山道を走ってちょっとしたところにあるコンビニだった。
「なんか、雰囲気なくない?」
「俺らに雰囲気なんて元からありませーん」
「それはそう」
ヘルメットを脱いで店の中に入り、足早に向かうのはアイスコーナー。
いくらバイクに乗ってるからといって当たるのは生ぬるい風だから、今すごい冷たいものを求めてる。
「うわ、なに食べよう。やっぱ夏はフルーツ系だよね~」
「お、これパイン味出てんぞ」
「えっおいしそう!私これにする」
新作パイン味のアイスを片手にレジに行こうとすると、上からひょいっとそれを取り上げられた。
「俺買うから、ひと口ちょーだいよ」
「お、がち?全然いいよ~」
ありがと、とその背中に声を掛けながら、会計を待つ。
コンビニ特有の音楽を聴きながら外に出て、差し出されたアイスの袋を破った。
「はい、最初のひと口あげる」
「せんきゅ~」
無意識にあーんする形になったけど、平然と食べやがったこの男にちょっとむすっとする。
あんなこと言っておいて、心臓が爆発しそうなのは私だけなの?
腹いせにがぶりとアイスをかじったら、知覚過敏でめちゃめちゃ痛かった。
「あ、やば溶けてきた」
ぽたりとアイスの棒部分をつたって手に液体が垂れる。
あーあ、べたべたになっちゃう。
慌てて口に含もうとしたアイスは、腕を引っ張られて真澄の口に入っていた。
しゃり、とアイスがかじられた音がして、少し上にある彼を見た。
熱すぎるくらいに向けられる視線に心臓が跳ねる。
「……な、キスしていい?」
低く囁かれたその言葉に、がちりと体が固まった。
かろうじてできたのは、首を縦に振ることだけ。
「っん、」
最初は、軽く唇が触れた。
ちゅ、と優しいリップ音が鳴って、離れたと同時に目を開く。
いつもの何十倍も近い真澄に、頭に血がのぼって破裂しそう。
次はどちらからともなく目を閉じて、さっきよりも深くキスをする。
暑くて頭は回らないのに絡める舌は冷たくて、全部がバグりそう。
片手に持った食べかけのアイスはもうどろどろだけど、でもそんなのどうでもよかった。
「ん、ぅ、……ぁ」
「………ふは、あま」
ぺろっと口端を舐めてそう言った真澄に恥かしくなって、その口を塞ぐようにアイスを突っ込んだ。
んぐッとびっくりしたような声を出していたが、どろどろのアイスを食べきって笑う。
「口べっちょべちょ。トイレで洗うぞ」
「う、ん」
暑さとキスで脳がとろけてぼーっとする私の頭を撫でた真澄。
優しいその手に腕を引かれ、またコンビニの中に入っていった。